【回顧録:北九州スタートアップイベント】
全ての起業家のチャレンジは尊敬に値する。中でも最も尊敬すべき起業家は、実現不可能と思われる難しい課題に向き合おうとする者たちである。WEB3.0の業界は、暗号資産取引や流出問題のイメージが強すぎて、現時点では障壁の方が多い。規制も多く、既存社会とのフリクションも多い。そのため、本来そこにある「自動化」の価値やインパクトに焦点が当たるまでに大変時間がかかっている。今回のイベントでは、それらをまさに体験したコインチェックの経営陣たちが参加してくれた。
WEB3.0は、GAFAM等の「帝国主義からの脱却」であるとも言われている。ひとつ前のパネルのテーマは「GAFAMを生み出す」だったことから、担当した二本目のパネルである「WEB3.0」のテーマは、実はシナリオ的に続きものであった。
WEB3.0においては、誰かの作った社会のルールに従うだけではなく、ルールを作る側にまわることが推奨される(トークンをもっている者が、運営にコミットできるなど、各自のルールを作ることが出来る等)。また一度ルールを作ってしまえば、基本的には人の手によってではなく、ルールに基づいて自動的に動くことになることから、これまで多くの人々が感じたことのない緊張感がある。おそらく優秀なルールメーカーであれば、失敗を見越して改善できるよう新たなルールを追加するだろう。その追加のルールを入れるか否かも、WEB3.0ではルール化できる。
これらWEB3.0の登場によって、いま私たちの周辺にある既存社会への意識も多少変わるはずだ。誰もが当たり前と思っていた既存のルール(これまでの民主主義や資本主義)さえも、正しく疑ってみるような機運が高まるだろう。これまでの当たり前が正当に疑われることこそ、WEB3.0が登場する社会的価値と言える。
また、従属という選択肢だけではなく、自ら作るという観点。今後は、新たな自治や新たな貢献型社会の提案が盛んに行われることになるだろう。これがWEB3.0の社会的インパクトの一つだと言える。
一方、私たちに求められるのは、ルールにコミットしつづける覚悟。それを支える切れ目のない人々の主体性こそ、WEB3.0の登場により、はじめて人間が(特に日本人が)体験することではないかと見ている。
これらのパラダイムシフトに取組むWEB3.0の起業家たちは、さながらレジスタンスのようにも見える。WEB3.0の起業家たちは、困難な中、どのように実現しようとするのか、これがパネルの大きなテーマであった。
イベントの前日、彼ら一人ひとりの世界観を知った上で当日に望みたいと思い、前日から彼らと飲み語り合う時間を持った。おかげでWEB3.0の「難しそうな部分」に無駄な時間を使わず、聴衆の置いてきぼり感はなんとか避けられたのではないかと考えている。
【登壇したパネリストの人物たち】
コインチェック役員の天羽氏は、日本におけるWEB3.0界のシナリオメーカーである。WEB3.0において何が起こるのか、預言者となる。これから彼の描く作品に現実が追いつく姿をみることになるだろう。
同じくコインチェック役員の竹ケ原氏は、ファイナンスの抽象的な視点をもちつつも、実現化のためのロビイング及び地ならしといった地道な部分をも担える人だ。
渋谷区の田坂氏は、多様性の海で触媒的な性格から人材を見つけ出すのが得意な人だ。渋谷区が彼を採用しているのが理由が良く分かる。
アクセンチュアの千葉氏は、行政出身でアクセンチュアにいるから、ビジネスの取組みの中に社会的意義、価値を誰よりもジャッジできる人だ。
上記のパネリストに加え、今回のイベントに精力的に動いたトーマツの久留島氏は、日本の縮図ともいえるモノ作りからはじまった都市である北九州の進化のビジョンを見抜いている人だ。
彼らのお陰で、モデレーターとしての仕事は及第点か。パネルの評価には、あまり沿わない言葉だが「素晴らしいチーム」であった(聴衆も含めて)。
【終わりに】
WEB3.0パネリストたちの活躍は称賛に値する。また、地元北九州市に関わってくれたことに敬意を払いたい。次回一緒に仕事ができる機会を楽しみにしている。彼らはこれから、賛同者や、理解ある者を増やし、レジスタンス的に始めるだろう。これは、あらゆるゼロイチ系ビジネスモデルの最もスタンダードな手法だからだ。今後の彼らに大注目したい。